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グロース企業が気を付けたい国際税務 (その2 国外関連者取引)

グロース企業が気を付けたい国際税務のその1として、まずは消費税を中心とした論点を整理しました。

その1の消費税は、取引相手先が第三者の海外顧客又はユーザーでもその対応について留意が必要ですが、今回、その2ではグループ子会社等を通じて、海外展開を行う場合における国外関連者取引における留意事項について、特に国外関連者寄附金を中心に解説します。

国外関連者取引に係る移転価格税制も税務リスク対応の重要項目ですが、日本の税務当局の税務調査の執行においては、国外関連取引の規模が相対的に小さい場合には、移転価格税制の適否の前にまず国外関連寄附金に該当するものを調査することが一般的と言われています。

これは、移転価格税制の税務当局のその執行に係る時間が国外関連者寄附金のそれに比べはるかに多くなることがその要因として考えられます。

このためグロース企業においては、まずは可能性の高い国外関連者寄附金のリスク対応を行うことが重要になります。

国外関連者取引

国外関連者取引とは国外関連者と行う資本取引以外の取引です。

この国外関連者は、資本関係による形式基準と、取引関係又は役員構成等による実質基準に基づき以下の通り判定されます。

形式基準

50%以上直接又は間接に発行済み株式等を保有する親子の関係、及び同一の直接又は間接にその発行済み株式等の50%以上を保有する親を持つ兄弟の関係がある場合には、これらの法人間の取引は国外関連者取引となります。

また、複数の段階にわたる資本関係がある場合には、ある会社の国外関連者が他の外国会社の50%以上の発行済み株式等を保有する場合は、当該他の外国会社に対するある会社の保有割合が50%を下回った場合でも(例、ある会社>国外関連者 50%、国外関連者>他の外国の会社50% 50%X50%=25%)、当該他の会社はある会社の国外関連者になることに注意が必要です。

また、個人及びその特殊関係者を一の法人としみなした場合に上記の資本関係がある場合にも国外関連者となります。

実質基準

次の特定事実があることにより二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の事業の全部又は一部につき実質的に決定できる関係

  • 当該他方の法人の役員の二分の一以上又は代表権を有する役員が、当該一方の法人の役員又は使用人を兼務している者又は当該一方の法人の役員若しくは使用人であった者
  • 当該他方の法人がその事業活動の相当部分を当該一方の法人との取引に依拠して行っていること。
  • 当該他方の法人がその事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該一方の法人からの借入れにより、又は当該一方の法人からの保証を受けて調達していること

なお、実質基準による国外関連者の判定は、複数の段階にわたる法人間においても適用されます。

国外関連者寄附金

法人が各事業年度において支出する寄附金の額のうち、国外関連者に対するものは、その全額が各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されないこととされています。

寄附金の額は、「寄附金、拠出金、見舞金その他のいずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品その他のこれらにツイする費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるものを除く。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的利益のその供与の時における価額によるものとする。」と規定されています(法人税法37条第7項)。

また、この寄附金の額には、資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額がその時の時価に比べて低い時は、その差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められるものをも含まれるとしています。

国外関連者寄附金は、日本法人が海外子会社に対する支援を行う場合には、その支援が国外関連者寄附金となるケースがあるため留意が必要です。

ケース1 子会社立ち上げ時の支援

海外子会社を設立し、その事業立ち上げを支援するため、立ち上げ期間中の費用を子会社に代わって負担する場合は、その負担は子会社に対する経済的な利益の供与として国外関連者寄附金となります。

運営期間中の費用には、親会社から子会社に出向した出向者の給与を日本法人が負担する場合も含まれます。

ケース2 子会社に対する値引き販売あるいは高価仕入

海外子会社と資産等の販売又は仕入取引がある場合において、契約上取り決めた取引価格とは異なる価格で値引き販売した場合あるいは高価仕入をした場合には、契約で定めた取引価格との差額が国外関連者寄附金の額とされます。

ケース3 業績不振の子会社に対する債権放棄又は無利息貸付

外国子会社に対する債権放棄等による損失負担又は無利息貸付等は原則として、国外関連者寄附金の額として取り扱うことになります。

ただし、倒産防止のためやむなく行われるもので、合理理的な再建計画に基づき行われるものであるなど相当な理由があると認められるときは、供与する経済的な利益の額は寄附金の額に該当しないものとされます。

業績不振の程度は、債務超過状態にあり再建計画の策定が必要になる状況をもって判断する必要があります。

国外関連者寄附金リスクへの対応

国外関連者寄附金の額の該当性の判断は、当該対象取引について税務当局が贈与の意思の有無の認定ができるかどうかが、重要な基準になると考えられます。

贈与の意思が認定できなければ、国外関連者寄附金の額として損金算入の否認(利益供与の場合は、一旦外国子会社に対する債権を認定し、それを債務免除したことによる損失額の否認)はできないことになります。

贈与の意思の認定は、契約の取り決めがある取引については、その契約に従わず任意に取引価格を設定し利益供与が生じた場合、あるいは、社内文書に海外子会社に対する費用負担等に係る当該取引の目的が、外国子会社に対する支援と記載がある場合に可能となります。

従って、国外関連者寄附金リスクへの対応は、海外子会社に対して非経常的な取引は極力避ける一方で、仮にそれを行う状況が生じた場合においても、贈与の意思が認定されないよう契約書あるいは社内文書の整備が必要になります。

国外関連者取引については上述の通り移転価格税制も適用対象となります。外国子会社に対する非経常的な取引が移転価格税制対応の一環として行われる国外関連者取引の独立企業間価格への対応の一環であることが客観的に説明可能な場合には、国外関連者寄附金の額には含まれず移転価格税制の範疇で税務上の合理性を判断することになり、損金不算入の国外関連者寄附金の額は生じないことになります。

グロース企業が気を付けたい移転価格税制の実務対応は次回以降に解説します。

 

ESネクスト税理士法人では、国際税務ヘルスチェックサービス(見積費用は15万円前後)を通じて、国際税務分野の課題抽出とその対応策の処方を提供します。

担当:石田 hitoshi.ishida.aa@es-next-tax.jp